熊さん出てこないでね、長沢背稜完遂~棒ノ折山から雲取山(3)
5/21 酉谷避難小屋~酉谷山~芋ノ木ドッケ~雲取山~ブナ坂~鴨沢
(前回の続き)
結局、小屋に泊まったのは私ひとりだった。
静かな小屋の夜、聞こえてきたのは、カッカッカッと一晩中走り回るネズミの爪音と、明け方の雨音だった。
酉谷山の山頂で日の出を迎えるために、3時半に起床する。しかし、当初の天気予報に反して、外は雨。濃いガスに閉ざされ、薄暗がりの中、ヘッドライトの光がぼんやりと見えるだけだ。
ここに来るまで、たくさんの獣の気配を感じた。霧の中で熊や猪に鉢合わせしたら嫌だ。予定変更。
コーヒーを沸かして、明るくなるのを待つ。
日の出の時刻を過ぎ、すっかり明るくなったので出発。幸いにして、雨も小降りになった。
ただし、ラジオが告げる天気予報は悪いほうへ変わっていた。今は降ったりやんだりの雨も、午後には本降りになるらしい。先を急ごう。
酉谷山、静かな山頂。
霧雨は降っているが、風はなく、雨具を着ていると蒸し暑い。雨具の前を開ける。
山頂から石尾根を眺める。
立木はあるが展望もそこそこあり、天気が良ければのんびりしたいところだ。秋に来たら紅葉もきれいだろう。
でも今は、写真だけ撮って立ち去る。
ブナの稜線が続く。濡れた木の根を踏むと滑るので、うかつにスピードが出せない。
行福ノタオから長いトラバースが始まる。
等高線が緩んだところには、ブナの森が広がる。いや~、いいところだ。晴れていたら新緑が輝いていただろう。
全体として歩きやすい道だが、トラバースが多いので、ちょっと崩れているところもある。
私は雨は全然うれしくないが、コケや草木は喜んでいるようだ。
分かりやすいランドマーク。タワ尾根ノ頭の先にあるヘリポート。
日原鍾乳洞へ下りることのできるタワ尾根には、立ち入り禁止のロープが張ってあった。
ゆる~く下り続けるトラバース道、こんなに下っていいのか?と思いつつ快適にとばす。すると突然、天祖山尾根の分岐が現れる。下った分は登り返すらしい。
天祖尾根の分岐から少し登り返して、主稜線に上がる。手元の地図には、水松山から尾根通しの道が描かれているが、例のごとくロープが張ってある。
道標に従って、尾根の北側を巻く道に入る。
朽木が散乱し落ち葉が厚く積もる、緩やかな北側斜面をトラバースしてゆく。
今回、初めてキノコをみた。
雨が激しくなってきたので、しっかりと雨具を着る。暑いよ~。
道標だ、、、ん?熊パンチじゃない、これ?稲包山で見たのと一緒だよ(「熊とヒルにおびえながら三国峠、法師温泉へ」)。
おっかね~。
ぴょこの上に、黒い直方体が置かれている。モノリス!?
雲取山や三頭山など、奥多摩のメジャーピークに置かれている、山頂を示す大きな石標だった。
ここで新たな謎が。なんで、長沢山みたいなマイナーピークに、こんな立派な石標が置かれているのだ?いったい、どういう基準で山を選んでいるのだ?
長沢山から1700mを切るコルまで一度下って、そこから雲取山からの道が交わる1946mの芋ノ木ドッケへの登りが始まる。尾根の雰囲気ががらりと変わり、木の根が絡む岩尾根になる。
芋ノ木ドッケは、進行方向、そう遠くないところににあるはず。しかし、行く手には、ガスに霞む森に覆われたぴょこが見えるだけ。
ぴょこに立つ道標に「桂谷ノ頭」と書かれたテープが巻いてある。この山頂名を書いたテープ、棒ノ折山からずっとある。私と同じルートを歩いたのだろう。
ん、このテープの下の柱の傷は、熊が噛んだ跡じゃなかろうか...熊さん、出てこないでね。
再び、尾根の南側をトラバース。道のど真ん中に切り株。写真には写っていないけど、もっとあって並んでいる。
また、木の根の絡んだ岩尾根の急登。芋ノ木ドッケへ向けて着々と高度を上げる。
登りきれば、コヤセドノ頭。いつの間にか、山からブナの緑は消え、シラビソやコメツガの針葉樹の黒い森となる。
登山道はよく踏まれているが、登山道にからむように獣道が錯綜している。
苔むした針葉樹の森。奥多摩最奥の森。奥秩父っぽい。
雲取山から三峰の縦走路から長沢背稜を分ける芋ノ木ドッケに到着。ただ、現在の雲取山からのメジャーな縦走路は芋ノ木ドッケを巻いているので、縦走路との合流点はまだ先。
また、芋ノ木ドッケの山頂を示す道標は、なぜかここから南にちょっと下がったところにある。
ん!?
熊の毛が絡みついている。ここにも熊パンチ。すごい熊密度。
熊はなんでこんなに道標を目の敵にするのかわからない。ただわかることは、道標にパンチした勢いで、熊にパンチされたらただでは済まない。
芋ノ木ドッケから、ずり落ちそうな急斜面を縦走路へ下る。
ああ、来た。
縦走路との分岐について、思わずそうつぶやいた。
高校生の時に、初めて雲取山に登る途中で見た長沢背稜への分岐。どこか遠くへ続く縦走路。その時から、いつか行ってみたいと思っていたが、まさかこんなに時間がかかるとは思ってもいなかった。ヒマラヤや南米の山より遠かった。
そもそも「いつか行ってみたい」と思ってはいかんのだ。若い時には「いつか」は、未来への約束のように思えるが、実際は現在へのあきらめに過ぎない。行きたいところは「いつか」ではなく、できれば今すぐ、もし無理なら、3年後の夏休みとか具体的に決めないと、いつまでも行けないのだ。
(次回に続く)
参考:
ソロのときに使うバーナー。ヘッド重量がわずか67g、超小型軽量。
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赤星山もおといこさんも地元で親しまれている山のようですね。調べてみたら行ってみた…