第30回ハセツネCup参戦

10/9 五日市中学校-今熊神社-醍醐丸-生藤山-三頭山-御前山-大岳山-御岳神社-金比羅尾根-五日市会館

ついにこの日がやってきた。
日本山岳耐久レース・長谷川恒夫CUP、通称「ハセツネ」。

秋川流域の山々をめぐる総距離71.5km、累積標高差4582mのレース。ヒマラヤを目指す若いクライマーの登竜門として位置づけられているため、長距離のレースにもかかわらず、エイドは1ヶ所で補給は飲料1.5リットルのみ、必要な食料は自ら背負う厳しい条件が課せられている。しかも、スタートが12:45~13:00と遅いため、トップランナーでも夜の真っ暗な山の中を走る、ナイトランを強いられる。

ハセツネ公式サイト

4年間に参加を思い立って、トレーニングを重ねエントリーをするも台風で中止。そしてコロナによる2大会連続中止。参加もしていないのに参加賞だけ送られてくるという、悲しい時間が流れていった。
そして、今年、開催が確定となったが、8月に足を捻挫してまともにトレーニングできず。
しかし、一夜漬けのようなトレーニング(「ハセツネ直前でトレーニング開始」、「ハセツネの最も重要な試走」、「ハセツネ、ナイトラン試走」)をこなして、なんとか完走のめどがたち、参加にこぎつけた。

当初、14時間台でのゴールを目標にトレーニングを続けてきた。しかし、足の捻挫がまだ完治しおらず、トレーニングも不足しているので、目標を16時間台に改めレースプランを練る。

寒冷前線の通過に伴い、天気予報は今日の午後から明日の朝まで雨。ただし、桧原村の最低気温の予報は10度で、やや高め。雨に濡れて寒くなるか、気温が高くて暑くなるか悩む。

濡れて寒くなる&トレールがドロドロでスリップするかも、という予測でウエアと装備を選ぶ。ウエアを着て、装備とその他の持ち物(シュラフやゴール後の食料など)を大きなバッグに詰めて出発。
荷物置き場(仮眠場所)の体育館の場所取りのために早く出たのが幸いしたか、電車は武蔵五日市駅まで座ることができた。

20221009 ハセツネ・武蔵五日市から歩く

武蔵五日市駅を出る。ぞろぞろと列をなす参加者の流れに身を任せて歩く。
空はすでに鉛色の雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそう。

20221009 ハセツネ、スタートの五日市中学校

おおっ、五日市中学校のスタートゲートが見えてきた。

20221009 ハセツネ、受付

10時半に会場に到着。
競技要項が送られてきた封筒と、山岳保険の証書を見せて受け付け。ナンバーズカードとチップを受け取る。

荷物置き場&仮眠所の体育館はまだがら空き。早く来てよかった。
テーピングテープで右足首を固定し、コンプレッションソックスを履いて身支度をする。装備も1つ1つ確認しながらバックパックに詰める。準備が終わったところで、持参したサンドイッチで昼ごはん。

11時半くらいには、体育館の床は参加者の場所取りでほぼ埋まり、それ以後来た人は空きを探してうろうろしていた。トイレが混むとの話を聞いていたが、そんなこともなくよかった。

開会式の時間が近づいたので外に出る。

20221009 ハセツネ開会式

開会式には、ハセツネの優勝者が招かれ、当時の思いを語り選手を激励。
石川さんが上田さんに、ハセツネはもう走らないのかと聞いたところ、「自分の記録を脅かす人が現れれば走ります」と。かっこい~、さすが最速記録保持者。
横山さんが、08年大会で鏑木さんとの同時ゴールをしたことを後悔していると話していた。まだ余裕があったのに、鏑木さんにのせられて手をつないでゴールしてしまった...。これを聞いたら鏑木さんは何と言うか...。

スタートの時間が近づき、目標タイムごとの列に並ぶ。コンディションが万全ではないので、15時間の列へ。ゆっくりスタートしよう。大半の人は14時間より早い列に並んでいて、15時間以降は人がまばら。
ここで、仲間を発見。無事に完走することを誓い合う。

20221009 ハセツネ、スタートの号砲

号砲とともにゆっくりスタート。
なかなか前に進まない。走ってもいないのに暑くなってきた。長袖Tシャツを腕まくり。

20221009 ハセツネ、スタートゲート

1分半くらいして、やっとスタートゲートをくぐる。

始まるぞ!行くぞ!

でも...人の流れに身を任せて、ゆっくり進む。

20221009 ハセツネ、リバーティオ手前の分岐からの登り

リバーティオ手前の分岐から、ロードの登り。やや人がばらける。

20221009 ハセツネ、広徳寺から渋滞

そして、広徳寺からトレールに入る。
予想通り渋滞。
止まっている時間のほうが長い。
雨がポツリと額に当たる。もう来たか、と思ったらすぐにやんだ。でも、いつ本降りになってもおかしくない空模様。

変電所のロードに出たところで、いったん渋滞が解消。下りを走り、できるだけ多くのランナーを抜く。
今熊神社の手前で、開会式で激励してくれたレジェンドたちが声援をくれる。
石川さんが「ここは頑張るところじゃないぞ~、ゆっくり行け~、まだ先は長いぞ~」と、ひとりひとりに声をかける。
そうだよね、まだ3kmくらいしか走ってないもんね。

20221009 ハセツネ、今熊山の登り

今熊神社から本格的なトレールが始まる。
やっぱり渋滞。
止まったり歩いたり。石川さんに言われるまでもなく、頑張れるところではない。

今熊山山頂からの緩い下りは、ランナーが列をなして軽く走る、走れる。しかし、登りはすぐに渋滞。これは、試走よりタイムはだいぶ遅くなりそうだが、全く疲れないのでいいかも。

20221009 ハセツネ、入山峠

ハイキング気分で入山峠に到着。
まだ渋滞。
ジェルを1つ補給。

20221009 ハセツネ、市道山分岐手前

市道山分岐までは、細かいアップダウンが続く。
まだ渋滞。

市道山分岐で恐れていたことが。ポツリポツリと来た。
樹林帯なので、そのまま走り続ける。トレールのわきによけて、レインウエアを着る人を追い抜かす。

賑やかな鳴り物と人の声。醍醐丸だ。
雨は激しくなる一方、ここでベンチにザックをおいて、レインウエアの上を着る。ついでにチョコバーを1本補給。
なんか冷えてトイレに行きたくなってきた。おなかの調子も変だ。小と大両方したい。でもまだ、トイレのある浅間峠は遠い...とても遠い。とりあえず忘れることにする...トイレ行きたいから棄権とか絶対ヤダ。

デジカメは防水ではないので、ビニール袋に入れてザックのポケットにしまう。ここから写真はほとんどない。

醍醐丸から下りきったあたりから、夕暮れが迫り、木々の濃いところでは足元が見えにくくなる。ライトをつける人もいるが、電池の節約のためまだ我慢。

20221009 ハセツネ、雨の三国山

夕闇の雨のなか、三国山の山頂でランナーを誘導するスタッフ。ありがとうございます。
ここで足元を照らすためにヘッドライトをON。足元が泥でぐちゃぐちゃなのでよく見ないと、泥に足を取られる。下手したら靴が脱げそうになる。すでに1000人くらい先に行っているだろう。多くのランナーに練られた泥で、下り坂はヌルヌルの滑り台、平らなところは田んぼのように足首までもぐる。

進むにしたがって、雨だけでなくガスもかかる。ヘッドライトの光が顔の前で拡散されて足元が見にくい。
節約したいが、やむを得ずウエストライトを弱でオン。あ~、ぜんぜん見え方が違う。やっぱりウエストライトは必要だ。

先行者が突然視界から消える。足元を滑り落ちていく。四つん這いになりながら滑っていったり、バランスをとろうと四苦八苦して、バレリーナーのようにくるくる回っているランナーもいる。そのわきを通ってどんどん追い抜く。アイゼンをつけないで、雪渓を下りているような状況なので、こういうのは慣れている。
滑りそうになり、近くの木の幹に手をかける。すると手がドロドロに。うわ~、気持ち悪い。転んで泥に手をついたランナーが木つかむので、周囲の木がみんなドロドロになっている。

お腹の調子をごまかしごまかし、転ばないようにひたすら早歩き。もはや、トレールランニングではなくて、いかにドロドロの道を転ばないように歩くかという、別の競技になっている。

遠くから人の声と、明かり。第一関門、浅間峠に到着。
トイレはどこだ~、あった、と、男子はこちらですと誘導される。違います!大です、と、トイレテントに駆け込む。助かった。
激しい雨の中、夜の山で選手の世話をするボランティアさんに頭が下がる。ありがとう。

チョコバーを補給して出発。

日原峠でお地蔵さんを確認して、ポールを出す。
ここからは、登りが続く。ウエストライトをオフにして、ヘッドライトの弱のみで進む。

丸山から西原峠までは、尾根の北側のトラバース道が多くなる。ここが今回、一番厳しいところだった。
普段なら快適に走れるが、今はドロドロ。常に右側の崖側に滑りそうになっているのを、こらえながら歩く。痛めている右足に、普段かからないような力がかかる。右足の指が痛くて感覚がなくなってきた。
前のランナーも滑ってバランスを崩しながら、斜面から落ちないように踏ん張りながら歩いている。後ろから見ていると、くねくねとへんな踊りを踊っているように見える。たぶん自分も一緒だろう。

槇寄山。試走よりかなり遅いペースだが、泥の坂道とトラバースで体力消耗。ジェルを補充。
これから三頭山への最大の登りが控えている。

三頭山の登りは、足の筋肉が疲労しているのできつい。雨もどんどん激しくなる。前と後ろにぼんやりとライトの列。その間を一人旅。ゆっくりと確実に登る。ちょっと立ち止まって休むと、集団に一気に抜かれる。みんなまだまだ元気だ。
三頭山の登りは岩がちで泥道が少なく、また、気温が高いので濡れても寒くないのが救い。

疲れのせいか、眠たくなって集中力が途切れ途切れに。ここで、カフェインドロップ投入。ほのかな苦みが口の中に広がる。とたんに、脳がカフェインが来た~と騒ぎだして、意識がはっきりする。カフェインが吸収されるのには20分ほどかかるはずだが、プラセボ効果もあり眠気が吹っ飛ぶ。

三頭山小屋に到着しテラスに座って一休み。チョコバー補充。山頂まではもう少し。
登りの足はほとんど売り切れ。

意を決して長い階段を登っていくと、上のほうから、ここが山頂だよ~、との声。

20221009 ハセツネ、雨の三頭山

土砂降りの三頭山山頂。試走より2時間弱遅れる。そりゃそうだ、半分以上歩いているんだから。
広い山頂も水たまり状態。みんな一息ついて写真を撮っている。私もビニール袋からカメラを取り出して、素早く1枚。
山頂で、35km走った感激をおかずにおにぎりを食べる予定だったが、雨でそれどころではない。
日原峠で出したポールをここでしまって、走って下るつもりだった。でもこのスリッピーな状態では、ポールを使ったほうが安全で速いと判断。写真を撮り終えて、すぐに出発。

下りの足はほとんど使っていないので、下りは楽チン。スリッピーな急斜面を、スキーのショートターンのように、ポールでいなしながら駆け下る。鞘口峠まで2、30人は抜いたかな。泥で滑る斜面の下りは、ちょっとスキーのショートターンに似てるな。

長い下りのおかげで、登りの足がやや復活。風張峠まで、淡々と一人旅を続ける。

20221009 ハセツネ、月夜見第二駐車場

ロードに出て、ぼーっと浮かぶ明かりを目指して走る。唯一のエイド、月夜見第二駐車場。
エイドで、ポカリ1リットルと水500mlをもらう。ポカリを水筒に入れようとしたが、ここまで水を700mlしか消費していないので、入りきらない。しかたないのでポカリがぶ飲み。ついでにおにぎりを食べる。
休んでいても雨が容赦なく打ち付ける、体が冷え、震えが止まらなくなってきた。急いでおにぎりを口に詰め込む。またトイレに行って、エイドを発つ。

ここからは、雨なら地獄と予想していた下りに入る。
切り開かれた防火帯の泥の急斜面。ウエストライトの光が届く先まで泥の斜面が広がっている。ところどころに、泥と格闘し、尻セードで滑ってく人や、後ろ向きに滑り落ちていく人が見える。
この下りは、アイスバーンの斜面を、スキーを履かずに、スキー靴で下りていく感じ。地面の微妙なでこぼこや、木の枝を足掛かりに、慎重に下りる。

小河内峠からは、三兄弟の次男、御前山の登り。下りが続いたので、登りの足はチャージ十分。先行者のライトが見えたら、それに追いつき抜かす、を繰り返して快調に登る。
ただ、雨が激しくなってきた。打ち付けるように降る雨で視界が閉ざされる。パンツまでぐっしょり濡れてしまった。ゴアシューズ+スパッツで守っていた足もついに浸水。
午前0時を過ぎると、気温が下がり風が冷たい。濡れたランニングパンツに風が当たると、走っていても寒い。つらくはないが、かなり不快。

思ったより早く御前山の山頂に到着。ライトに照らされた視界に意識を集中しているので、時間のたつのが早い。
カフェイン入りのジェルを補給。一週間カフェインを抜いていたので、カフェインがよく効く。背負ってきたコーラはどうしようか...おにぎりももう1つある。持って下りたくない、寒くて立ち止まって食べる余裕はない。ここからの補給のメインは、フラスクに満タンに入っている自作ジェル。

御前山の歩きにくい大きな階段(「久しぶりはしんどいです」)は、ポールを使って難なく駆け下る。ここでも2、30人は抜いたか。
下りはライト強、登りはライト弱と、節電しながら、赤色発光ダイオードと反射板の目印を頼りに一人旅を続ける。

光が見えてきた。

20221009 ハセツネ、大ダワ

大ダワ。
トイレやリタイヤテントがあるので、賑やかかと思ったが、ランナーは片手くらいしかいない。ひっそり。
3度目のトイレ。トイレに行きすぎ。寒くて汗をかかないせいか、エイドでポカリをがぶ飲みしたせいか...

大岳の登りでやや渋滞。岩場に苦労しているようだ。バットレス上部をライトの明かりを頼りに登ったことを思い出す。でも、それに比べればなんでもない。ポールを持ったまま手を使わずに登る。

風が強く寒いので、大岳山頂は通過。岩場で苦労していた人たちを抜く。こんどは岩場の下り。前を歩いている人が速い。右手にハンドライトを持ったままぴょんぴょんと下っていく。私もそれについて下る。

コーラとおにぎりどうしよう...

大岳山荘からは、若干岩場が残るが、おおむね走りやすいハイキングコース。歩いている選手も多いが、ここでスピードを上げて抜いていく。おしゃべりしながらいい感じのペースで走っている集団に追いついたので、綾広の滝まで一緒に走る。

何時かな...ああっ!Garmin先生が死んでいる。24時間は持つはずなのに、電池がへたっていたようだ。ここからまったく時間がわからないまま走る。

再び一人旅。もう泥道もなく、雨もほぼやみ、本来の自分のペースで走り続ける。雨が止むと、濡れたパンツも乾き始めた。よし!

20221009 ハセツネ、御嶽神社

御嶽神社。私ひとりしかいない。

最後の登り、日の出山がきつくなるだろうと予測していた。しかし、不思議なことに、いつもより遅いながらも足がちゃんと動く。

最後の山頂、日の出山。休憩しているランナーがちらほら。

20221009 ハセツネ、日の出山山頂

うっすらと空が明るくなり、夜明けが近づいているようだ。でもGarmin先生が死んでいるので、何時だかわからない。
雨がやんで、寒くもないので、バックパックを置いておにぎりタイム。持って下りるのは嫌だもんな。しかし...五穀米のおにぎりは、疲労した体にはちょっときつい。噛むのがしんどいし、噛まないで飲み込むことはとてもじゃないができない。選択をまちがえた。
半分だけ食べ、残りをバックパックにしまって出発。あとは金毘羅尾根をひたすら下るだけ。

ウエストライトを強にしてスタート。下りは一定のスピードで駆け続ける。わずかにある緩い登りは、もう走れないので、早歩き。歩いている人が多く、また10人くらい抜いた。

タルクボ峰あたりで、空が白み始める。今、何時なんだろうか?

橋を通過すると、ゴールは近い。完走できるんだ、という実感がわいてくる。
琴平神社を通過。あと2kmとの掛け声。目の前を走っていた女性が、やったー、わーいと叫んで、スピードをアップして、あっという間に見えなくなった。すげー。

コンクリートの道が使い切った足に響く。きつい。私はペースアップできない。
ボランティアの誘導に導かれ、明るくなった住宅街をとことこ走る。

20221009 ハセツネ、ゴール

あ~、ゴールだ。やった、フィニッシャーになった。4年間思い続けていた目標がやっとかなった。
ゴールのゲートをくぐり、一礼。後ろを向いてお世話になったボランティアの方々とトレールに一礼。そして、深呼吸。思ったほど疲れていないし、眠くもない。
歩いてばかりだったので、あまりつらくなかった。でも、泥と濡れたパンツがひたすら不快だった。

チップをはずしてもらって、完走証とFinisherとプリントされたTシャツをもらう。これが欲しかった。
残念ながらちょっと目標タイムを達成することはできなかった。しかし、足の調子、ルートのコンディション、最初の渋滞を考えればしかたない。延々と続く泥道で、一度も転ばなかったことは誇れるかな。

ドロドロの靴、靴下を脱ぎ、茶色く染まったテーピングテープをはがす。服を着替え、五穀米おにぎりの残りを食べる。あ~あ、コーラを持って登って、そのまま持って帰ってきちゃったよ。単なる重りだったよ。

シュラフに潜り込んで、瀬音の湯のオープンまで体育館で仮眠。

20221009 瀬音の湯、キッチンカーのハンバーグ丼

瀬音の湯で、一晩の疲れと泥を洗い落とす。
そして、キッチンカーでハンバーグ丼を買って、朝ビール。さいこうだ~。

20221009 ハセツネ、泥まみれの靴

一緒に戦った靴。
ゴアとスパッツのおかげで、靴の中にはほとんど泥が入っていない。しかし、靴の外側は泥が練りこまれた状態で、泥水がでなくなるまで洗うのが大変だった。

(ハセツネ参戦、完)

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