奥秩父東部の秘峰めぐり~和名倉山から竜喰山(1)

10/21 秩父湖~和名倉山~東仙波~将監小屋

ただ眼前に、無神経なくらい厖大な和名倉山がデンと座っている

-「日本百名山」、深田久弥

深田久弥は、雲取山山頂から見る和名倉山をこう表現した。
実際、雲取山の山頂に北西方向に向かって立てば、目の前には「あの山は何?」と聞かずにはいられない、大きく根を張った山がある。和名倉山は、奥秩父の他の山々に決して引けをとらない重量感ある山だが、主稜線から遠く離れていることもあり、訪れる人は少ない。
私も、雲取の稜線から、あるいは奥秩父の主稜線から眺めるたびに、なんどもなんどもいつか行こうと思っていた。しかし、例のごとくいつまでも行けない山になっていた。

意を決して、和名倉山に登る。ついでに、奥秩父主稜線の山でありながら、登山道がない竜喰山と大常木山を縦走する。奥秩父東部の秘峰めぐりだ。

秋晴れの日、朝の電車には大勢の高校生が乗ってくる。そうだ、今日は平日だった。

20221021 西武秩父駅

西武秩父駅に到着。駅前のコンビニでおにぎりを買って戻ってみれば、バス停はすでにこの行列。平日なのに観光客やハイカーがいっぱい。
ソーシャルディスタンス糞くらえ、というぐらい乗客をギュウギュウに詰め込み、それでも乗り切れずバスは出発。

狭い道を頻繁にダンプカーとすれ違うので、バスはどんどん遅れる。あせる。
和名倉山になかなか足が向かなかった理由の一つに、公共交通機関のアプローチの悪さもある。
西武秩父駅からの始発のバスは9:10、時刻表では、登山口の秩父湖に10:00。そこから、登山道として整備されていない(山と高原地図では破線)二瀬尾根から和名倉山へ登って、水場があってテントが張れる将監峠までは、普通は9時間以上かかる。つまり、普通に歩いたら、休まず歩いてもテント場につくのが夜の7時を過ぎてしまう。それはいかん、日没の30分前の16:30にはつきたい。
バスの始発が遅いため、時間的に苦しい山行になってしまうのだ。

20221021 秩父湖バス停

秩父湖のバス停で降りたのは私ひとり。ハイカーらしきおばさまが、「ダムマニアかしら」って言ったのが聞こえた。結局、到着は12分遅れ。
トイレを済ませ、車道脇の遊歩道を歩いてダムへ行く。

20221021 秩父湖のダム

歩道の狭いダムをおっかなびっくり渡る。秩父湖は、ダムによってできた人造湖だ。

20221021 登山道入り口の道標

湖に沿って少し車道を歩くと、登山口を示す道標が立っている。ここを右へ下りる。「三峰神社方面」の文字はちゃんと読めるが、登山口を示す文字は消えかかっている。

20221022 秩父湖のつり橋

長いつり橋を湖の対岸へ渡る。ダムを浚渫する重機の音が響き渡る。
空気は冷たいが、歩いて暑くなってきたので、フリースを脱いで長袖Tシャツで登山開始。

202210 和名倉山二瀬尾根のはじまり

つり橋から左へ。道標があった。仕事道のようで、道は明瞭。
しばらく植林の急登が続く。ダムから和名倉山へは1400mくらい登るので、日本アルプス級の結構な登りだ。

20221021 和名倉山二瀬尾根の広葉樹林

尾根筋に上がると、明るい広葉樹林になる。やっぱり植林よりこちらのほうがいいな。
和名倉山は、皆伐や山火事によって完全に森林が破壊されてしまった山として知られている。この気持ちの良い森も再生林なのだろうか。

落ち葉が積もっていて道がわかりにくいが、とりあえず尾根沿いに道っぽいところを行けばOK。

20221021 和名倉山二瀬尾根から三峰

時々立木が途切れ、展望が広がる。去年走った三峰の尾根が見える(「涼を求めて?東京最高峰」)。その向こうは武甲山か。風もなく穏やかな日だ。ドングリの落ちる音。はるか遠くの自動車の音。

20221021 和名倉山二瀬尾根、反射板

広場に出た。道標には「反射板」とある。反射板という地名なのか?
ザックを置いて、おにぎりタイム。

20221021 和名倉山二瀬尾根、軌道跡

反射板からは、山腹をトラバースす森林軌道跡をゆく。苔が奥秩父っぽい。
歩きやすいので走る。先を急がねば。

20221021 和名倉山二瀬尾根のレール

おお、レールが残っている。

途中、軌道跡を上へと外れて、稜線へと続く赤テープが見えた。もしかして稜線に踏み跡があるのだろうか。軌道跡にも飽きたので、ちょっと登ってみる。

20221021 和名倉山二瀬尾根の広葉樹林

自分が落ち葉を踏む音だけを聞きながら、森を歩く。ときどきそこに微かな風が木々を揺らす音が加わる。はあ~、癒される...。
しかし、踏み跡なんてなかった。落ち葉に覆われたグズグズの急斜面を森林軌道に戻る。貴重な時間を20分無駄にしてしまった。

20221021 和名倉山二瀬尾根の軌道跡

お、車輪まで残ってる。

20221021 和名倉山造林小屋跡

ランドマークの造林小屋跡。車輪からここまでは、踏み跡が錯綜していてルートがわかりにくい。真っすぐトラバースし続ければよい。
時間を見れば...やばい、予定より40分遅れている。途中でビバーグなんてしたくない。写真だけ撮って出発。

ここから稜線に上がるルートもわかりにくいが、ちょぼちょぼと正解赤テープがついている。

20221021 和名倉山造林小屋跡の稜線

稜線に上がると、しばらくは尾根沿いの道。落ち葉に埋もれているがわかりやすい。テープと境界標もある。

20221021 和名倉山北ノタル下のトラバース

すぐに尾根の左側のトラバースルートとなる。木の根やら穴ぼこやらで全く走れず、遅れを挽回できない。

20221021 和名倉山北ノタル付近

北ノタルで稜線に復帰して、道もはっきりする。
いいね、シラビソとコケが奥秩父っぽいね。

20221021 和名倉山二瀬分岐

開けた草原に飛び出る。二瀬分岐。ここから一般登山道。

20221021 和名倉山山頂

再び森の中に入り、錯綜する道を行くと、その森の中のどん詰まりが和名倉山の山頂だった。
森。普通に森。どこかが高いということもなく。これがずっと憧れてきた山の頂...

時刻は14:40、予定より40分ビハインド。
ちょっと悩むな。予定通りのペースだと、将監小屋到着が日没に間に合わない可能性がある。このあたりならビバーグしやすいので、今日はここで終わりにしたほうがいいかもしれない。でも、この先は一般登山道なので、思い切り走れば40分の遅れは取り戻せるはず(ただし、山と高原地図で3時間半のところを1時間50分で走る)。

どうしようか...
決めた。全力で走る。ただし、水は余分に持っているので、間に合わないと確信したら、ただちに安全な場所でビバーグする。

よし、行くぞ~。

20221021 和名倉山八百平

和名倉山から下った鞍部付近が八百平。紅葉があまりにも美しいので、一瞬止まってパチリ。
ずっとこんな感じなら、どこでもビバーグできるんだけど。

20221021 東仙波から和名倉山

東仙波が近づくにつれ、尾根が細くなっていく。
振り返れば、大きな和名倉山。

20221021 東仙波山頂

東仙波山頂。本気で登っているので息が切れる。遅れを20分取り戻した。
3分休憩、チョコバーを補給。
日がだいぶ傾いてきたが、奥秩父の主稜線も近づいてきた。先が見えてきたぞ。

20221021 仙波付近から富士山

展望がいい笹尾根が続く。夕日に照らされた山々が美しい。静かに一日が終わりゆく...って感傷に浸っている時間はない。

20221021 西御殿岩

正面の山は、西御殿岩。登山道はその左側をトラバースしている。あの裏で主稜線の縦走路と合流する。ゴールはもうすぐだ!

20221021 西御殿岩の笹のトラバース

今日の山の神は、私をすんなりと解放してくれないらしい。胸までの笹薮のトラバースが続く。走るどころか、足元がよく見えず、笹がツルツル滑って歩きにくいことこの上なし。

20221021 奥秩父主稜線縦走路

でた。奥秩父主稜線の縦走路。地平線ぎりぎりの太陽に、木も笹もみんな赤く照らされている。きれいだな...
ここからは高速道路。残りわずかの道のりをダッシュ。

20221021 将監小屋

ああ、将監小屋。日没に間に合った。
平日なので誰もいないかと思ったけれど、テントが4張くらい張られていた。

20221021 将監小屋の水場

将監小屋は水が豊富。心おきなく水が使えるって素晴らしい。

とりあえずお湯を沸かして、コーヒーを飲む。そして、テントの中でストレッチ。テントを背負って本気で走ったので、足腰がだいぶ張っている。
いつものフリーズドライのビーフシチューを作って、さっさと食べて、ちょっとだけダバダ火振で晩酌して、さっさと寝る。あ~、疲れた。

次回に続く)

参考:
秩父湖バス停10:12-10:31つり橋10:41-11:58反射板12:08-14:40和名倉山-15:32東仙波15:37-16:40将監小屋

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