第4回Tokyo八峰マウンテントレイル参戦
12月24日、世の中ではクリスマスイブらしいが、私には全く関係ない。
まだ日が昇らぬ真っ暗な時間に、「Tokyo八峰マウンテントレイル」に参戦するために家を出る。
「Tokyo八峰マウンテントレイル」は、八王子の「夕やけ小やけふれあいの里」をスタートし、陣馬山、景信山、南高尾をめぐって、高尾口駅までの32km、累積高度1600mを制限時間8時間以内で走るレースだ。
2回の試走(「Tokyo八峰マウンテントレイル試走」「また試走、でも笹尾根~関場から数馬峠」)を行い、満を持してレースに臨む。
ところが、いきなり大誤算。
まだ始発バスも走っていない時間なので、大通りまで歩き、そこからタクシーに乗って駅に行くつもりだった。いつも、奥多摩や丹沢に早朝に行くときはそうしていた。しかし、クリスマスイブだからかなんだかしらないが、タクシーが一台も走っていない。駅に向かって歩きながらタクシーを捕まえようとしたが、一台のタクシーにも出会うことなく、とうとう駅まで歩いてしまった。
ひじょ~にまずい。歩いたため電車に乗り遅れた。
余裕をもって家を出たのに、高尾駅からスタート地点までの送迎バスに、間に合うか間に合わないかのギリギリの時間だ。
高尾駅に到着すると、出場者らしき人々がダッシュしてバス乗り場に向かう。私も負けじと追いかける。なんとか、最後の送迎バスに乗ることができた。
トイレに行きたかったのだがしかたない...混んでいるだろうけど、スタート会場でトイレに行こう。
ところが、悪いことは重なるものだ。スタート会場までの細い道で、バスがつまって動かない。スタートの30分前に着くはずが、そんな時間はとうに過ぎている。あと5分くらいでスタートの8時だ。バスに乗っている参加者のイライラが伝わってくる。みんなバスの中で、着替えたり準備を始めている。私もゼッケンやチップをつけて準備万端。
止まっているバスにスタッフがやってきて、スタートを15分遅らせます、とのアナウンス。
結局、当初のスタート時間の8時に会場に到着した。開会式はとっくに終わっている。
まずは、ダッシュして荷物を預けにいく。
なんだ、この行列は?
行列の先には、鏑木毅選手と写真を一緒に撮る参加者。ゲストランナーが、レジェンド鏑木さんなのだ。
鏑木さんは、スタートの5分後に最後尾から走り始める。そして、よっぽど速い人でない限り、途中で鏑木さんに追い抜かれる、つまり、鏑木さんと一緒に走れるレースなのだ。追い抜かされるのが楽しみだ。
写真を撮っている人を横目に、トイレを探す。
トイレトイレ...あった...。しかし、案の定、「大」は「大」行列だ。スタートまであと10分くらいしかない。間に合うか...。
ここで一大決心。「大」はあきらめて「小」ですます。
爆弾を抱えて走るようなものだが、なるようになるだろう...。
軽くアップして、出走の列に並ぶ。
スタート位置は、自己申告制で「上級者」「中級者」「初心者」に分かれている。中級者の先頭に並ぶ。晴れていて風もなく、12月としては暖かいと思う。でも、ちょっと肌寒いのでウインドブレーカーがわりにレインウエアを羽織る。
カウントダウンが始まり...スタート!
みんな、上り坂でも走り続ける。
試走で決めた通り、登山口のトンネルまで30分を目指す。荷物が軽いので、アップ不足でも、お腹が重くても、試走より足取りは軽い。ただ、中級者の先頭ペースは、トンネル30分ペースより少し遅く、ペースが上げられない。
トンネル到着。途中かなり追い抜いて、ほぼ30分で来ることができた。渋滞は5分くらい。体はすっかり温まったので、待っているにレインウエアーを脱ぐ。
登山道は、シングルトラックが続き、追い越しにくいので渋滞のまま進むことになる。登りはちょうどいいペースだが、下りが遅くちょっとジリジリする。
市道山分岐への登り。登り坂はみんな歩いている。しかし、さわやかに「こんにちは~」と声をかけられ、軽やかに走る人に追い抜かされる。
背番号0、鏑木さんだ!
おいおい、みんな、一緒に走るチャンスだ、追っかけて走れ!と、心の中で叫ぶが、残念ながら登り坂で走り出すほど浮かれたランナーはいなかった。
どんどん小さくなる鏑木さんの背中を見送る。
市道山分岐から私の得意な下りが始まる。ちょっと広くなったところで、猛烈なダッシュをかける。ほとんどのランナーが木の根や岩をよけて、右左と細かくステップを切る。私は、そんなものは無視して、「すみません、右行きます」を連呼しながら、スキーのショートターンのようにフォールラインに向かって、真っすぐ駆け下る。
その勢いを使って平坦なコルも走り抜ける。
20人くらい抜いたかな。
ああ、追いついた。登りで渋滞にはまった鏑木さんに追いつくことができた。
鏑木さんは、前後の人と楽しそうに話をしながら走っている。私もその集団について走る。
10分くらい一緒に走っただろうか。やや急になった登りでも、鏑木さんはペースを落とさず、まるで平地を走っているかのような大きく美しいフォームで走り続ける。私は...追いかけることができるはずもなく、それどころか、ここまでで、かなり登り下りの足を使ってしまった...。いわゆる「自爆」だ。へとへとになって歩いて登る私の視界から、鏑木さんの後姿は消えていった。
和田峠のエイドで水を一杯だけ飲んで、すぐに走り始める。ところが、そこから緩い登りになったとたんに、左膝の上の筋肉がつった、痛てて。まだ、レースの序盤だというのに既に足を使い切った。トレールの横にどいて、ストレッチをして、だましだまし走り始める。しかし、すぐに、足がつる。それも両足。
長い戦いがはじまった。
陣馬山からは、高速道路のように快適なトレールを気持ちよく走るつもりだった。しかし、走っちゃー、横にどいてストレッチをして、走っちゃーストレッチの繰り返し。10分走って、痛みに耐えられなくなったら1、2分休憩してストレッチという感じなので、全然ペースが上がらない。
雲一つない青空。風も弱く、コンディションは最高。自分の足以外は。
11時27分、走り出してから3時間12分。小仏城山のエイドに到着。
水を補給して、チョコレートを頂く。
両足の膝上が、伸ばすにしても縮めるにしても痛くて、ピキピキとつっていかんともしがたい。しかたがないので、5分ちょっと、腰を下ろしてマッサージをしながら休憩する。
後半戦、痛くな~い、痛くな~いと自己暗示をかけならが10分走っては、止まってストレッチの繰り返し。止まるたびに5、6人のランナーに抜かれるのが悲しい。Mg配合のジェルを飲んでみたけれど、何も変わらない。
試走で勝負どころと考えていた、大垂水峠から先の南高尾の細かいアップダウンのある稜線。もう、勝負どころではなく、どれだけ痛みをこらえながら前に進めるかという、それだけになってしまった。
三沢峠の手前に津久井湖を眺めながら休憩できるベンチがある。先客ランナーがいて、座ってぼーっと湖を眺めていた。私も隣に座って、ぼーっと眺める。
このレースのエイドには悲しいことにコーラがない。しかし、私設エイドが2、3か所あってコーラを振舞ってくれる。一杯のコーラをゴクリと飲み干す。あ~、うめ~。不思議なことに、コーラを飲んでいるときは、脚の痛みを忘れる。エイドの皆さん、ありがとう。
三沢峠のエイドから先は、トコトコと走り出しては、すぐにストレッチ、そして、下りの階段は、着地の衝撃をこらえながら恐る恐る下る、ひたすらこれの繰り返し。あとから来たランナーにどんどん抜かれる。もういいよ、とにかくDNF(Did Not Finish:途中棄権)にならなければ。
最後は、ちゃんと走っているふりをしてゴール。5時間半を超えてしまった。予定の5時間ちょいなんて、ぜんぜん話にならない。ゴールした時に授賞式が終わっていなかったのが、せめてもの救い。
誰が写真を撮ってくれるわけでもないので、また、ゴール後にゴールの写真を撮る。
敗因は明らか。鏑木さんと走るために、身の丈を越えた走り方をしてして自爆したからだ。でも、後悔はしていない、一緒に走れて楽しかった。
やるべきことは、次はもっとちゃんと走れるように、トレーニングを積むだけだ。
記録証、完走賞のTシャツとリンゴをもらい、つったまま、棒のようになった足で、とぼとぼと高尾山温泉に向かう。
そういえば、トイレに行きたかったのをすっかり忘れていた。
赤星山もおといこさんも地元で親しまれている山のようですね。調べてみたら行ってみた…