満州国の官庁街から氷雪祭のハルピン~中国・東北、漠河の旅(4)
12/27 長春・新民大街~ハルピン
(前回の続き)
7時に目覚しが鳴り起こされる。今日の天気は…とカーテンを開けたら、二重窓は完全に凍り付いていて、外が見えなかった。
窓の氷が薄いところをゴシゴシこすって、氷をはがす。外の景色がぼんやりと見えてきた。灰色の空に灰色にかすんだ街。いちおう雲はないようだが、灰色の靄がかかっていて太陽は見えない。気温も-20℃くらいにはなりそうだ。重苦しい風景だが、車のクラクションは朝から賑やか。
品数豊富なビュッフェで朝食を食べ、荷物を整理してチェックアウトする。これがロビー。5つ星ホテルと言っても、部屋自体はどうということはなかった。でもロビーの広さは5つ星級。
いずれにせよ、ドアから出た瞬間にズボンからすーっと熱が奪われ、冷たくなっていくのがとても不快。
今日はホテルの面する人民大街を南下し、自由大路を経由して、旧満州国の官庁街だった新民大街を北上して、駅に向かう予定だ。
休日の朝だというのに、すでに道路は渋滞気味だ。
あちこちで、金属のヘラでガリガリと路面の氷をはがしている。雪は降っていなくても霜で、氷はどんどん厚くなっていくのだろう。まるで、融けたガラスが道路にこびりついて固まったような感じで、なめらかに硬くて滑る。
変わった建物が見えてきた。これは旧満州国興農部、今は中学校になっている。
人民の後にくっついて、交通量が多く凍った道をおっかなびっくり渡る。そこが旧満州国総合法衙、最高検察庁。今は病院になっている。
白く凍った歩道は、表面がザラザラしているので歩きやすい。車道の黒い部分は、アスファルトが透明な硬いツルツルの氷でコーティングされた状態になっている。車は接触しそうなくらいギリギリを走るし、かなりデンジャラス。
旧満州国交通部。新民大街の両側には、この手の旧満州国の官庁(=変な建物)がずらりと並んでいる。
吉林省図書館。建物の周りをぐるりと歩いてみたが、昔はなんの建物だったかわからない。でも、もう、写真を撮る指先や、冷たい空気に直接触れる鼻が痛くて、どうでも良くなってきた。
旧満州国司法部。今は吉林大学。
新民大街のクライマックス、旧満州国国務院。行政の中心だったところだ。国会議事堂をまねたつくりになっている。地球の歩き方には1階は見学できると書いてあるが、我々は入ろうとしたら追い出された。
国務院の通りをはさんだ向かいは、旧満州国軍事部。
国務院で新民大街は解放大路に突き当たって終わる。その先には、皇帝の宮殿として作られた地質宮がある。
地質宮の前には文化広場と言うだだっぴろい広場がある。風を遮るものがないので、吹きさらしだ。風上のほっぺたが、痛いを通り越して感覚がなくなってくる。完全に冬山気分だ。顔に風が当たらないように、真横を向きながら、文化広場をまっすぐ進む。
振り返れば、真ん中に新民大街が延び、左側に旧国務院、右側に旧軍事部が控える。印象的な風景なので、最後の力を振り絞って写真を撮る。2時間ほど写真を撮り続けていたので、カメラを持っていたほうの手の指先が、冷たくなって感覚がなくなっている。曲げ伸ばしもままならない。
もうだめだ~、ギブアップ。カメラをしまい、また目を三角にして、わき目も振らず駅を目指して小走りで突き進んでいく。
なぜか駅前通りのいちばん賑やかなところに携帯電話ショップが並んでいる。
食事ができるところを探して人民大街から脇道に入る。ここも多くの人民が信号も車も無視して、せわしなく歩き回っている。とても中国らしい。こんな寒いのに串に刺した山査子(さんざし)飴を売っている。これも中国らしい。が、-20℃の道端で売るなんて、どんだけ山査子が好きなんだ。
早速、食べようと箸を手に取るが、手がかじかんでいて箸が持てない。仕方なく、しばらく熱々のどんぶりを両手で抱え、刀削麺を眺めながら手を温めていた。
駅前にはリヤカーみたいな屋台がたくさん出ていて、湯気をあげている。焼き芋や煮卵を売っている。買ってもすぐ冷めてしまいそうだが、買っている人は結構多かった。
立ち席券を握り締め、人民に混じってT243の改札前に並んだ。30分遅れて改札が始まり、ゲートが開いた瞬間、人民がワーッとホームに向けて走り出した。なんだか分からないが一緒になって走って行く。列車のドアでおしくらまんじゅうのようになって、車内になだれ込む。皆、我先に席に座り始めたので、私も立ち席券ながら、一緒になって空いていた席に腰を下ろした。
青いシートのカバーは乱れ、タバコくさい。床には豆の殻が散乱している。洗面台にはゴミが押し込まれている。あちこちで人民が大声で話したり、電話をしている。和諧号と違って車内は猥雑な雰囲気だ。
トイレに行くためにデッキに出た。外の景色を見ようとしたが、窓は完全に氷に覆われている。手袋でゴシゴシこすって窓の氷を削ぎ落とす。そこからは今にも沈もうとする夕日が見えた。
駅前には氷でできた大きな城がライトアップされていた。道路もカチカチに凍っていて、長春以上に滑る。さすが数十万人の観光客を集める氷雪祭がひらかれる都市だ。
自殺行為かと思いつつ、ハルピン駅から4kmほど離れたホテルまで、冷凍室なみの寒気の中を歩いてゆく。でも面白いものが見れた。道が凍っているため、ちょっとした坂道を路線バスが上れない。と、乗客がバスからわらわらと降りてきて、みんなでバスを押し始めた。
やっと中央大街までやってきた。ホテルは近い。
中央大街には1910年代に建てられた、ロシア様式の建物が建ち並ぶ。今ではその建物に、ブランドショップやホテル、デパートなどが入り、大ショッピング街になっている。
通りには一定間隔で氷像が並び、これもライトアップされている。観光客が多く、氷像の前でかわるがわる記念写真を撮っている。
フロントでは英語が通じず、これから中国語攻めが始まることを予感させる。安い割には清潔な感じのホテルだが、トイレのドアが壊れていて閉まらなかった。
夕食のために、また街に出る。歩道や街角のあちこちに作りかけの氷像や氷のブロックが放置されている。街全体が氷雪祭に向けてまっしぐらだ。
ホテルへの帰り道、中央大街に屋台を見つけた。何があるのかな~、とのぞいてみたが、なぜか、ナッツとドライフルーツしかなかった。
(次回に続く)
赤星山もおといこさんも地元で親しまれている山のようですね。調べてみたら行ってみた…