2024 Mt.FUJI 100 – FUJI100mi参戦(2)
4/27 北麓公園~忍野~山中湖きらら~鉄砲木ノ頭~杓子山~明見湖~天上山~北麓公園
(前回の続き)
北麓公園から真っすぐなロードの緩い下りを走り、一瞬トレイルに入る。足は痛いものの、40分の休憩のおかげでトレイルなら思い切り走れるようになった。気持ちよく先行者を抜いていく。
トレイルをでて大塚丘を越える。あっという間。
そして、次のエイドまでの山越えに入る。
たぶん昼間ならなんということもない山。しかし、緩い上りでも走れない。走れないどころかちょっとした段差によろめく。ランナーの間隔が離れ、ほぼひとり人旅状態。目に入るのは、ヘッドライトに照らされたデコボコの路面のみ。
登りが急になっていく。急斜面を登るのに足が踏ん張れない。のろのろと登っては時々、トレールの端によって止まって休む。息が弾むわけではないが、とにかく足があがらない。ああきつい。
ピークにでると山中湖の夜景が見える。街の明かりを眺めながら思う。
「風呂入ってうまいもん食って、寝たい。」
なんて考えていると本当に眠くなる。秘密兵器、カフェインドロップ投入!しかし、もう効かない...
あんこ餅をもぎゅもぎゅと噛んでいると、その間は目がさえることを発見。顎を動かすと眠気が覚めるというのは本当だった。しかし、これもじきに効かなくなる。
よろよろと山を下る。足元が危ういところでは、思い切り深呼吸する。すると、数秒は目がさえるのだ。そして、またすぐ眠たくなって、よろよろと下る。
ロードに出て、明かりに引き寄せられるゾンビのごとくフラフラと走る。
第5エイド、忍野。スタートから113km。
エイドは意外と閑散としていた。
アンパンをアミノ酸ドリンクで胃に流し込む。少しでも回復することを願って持ってきた、ビタミンやアミノ酸のサプリも流し込む。
そしてガラガラのトイレにはいる。
寝よう、とにかく寝よう。もう走れない、いや、歩けもしない。
仮眠場所は体育館。10数人くらいだろうか、ランナーが着の身着のままゴロンと横になっている(倒れている?)
私もブルーシートが敷かれた床に座り込み、バックパックからフリースとスリーピングシーツを引っ張り出す。
のろのろとフリースを着て、スリーピングシーツに潜り込む。ああ、そうだ、目覚ましだ。当初はここで4時間たっぷり寝る予定だったが、最初の渋滞とエイドでの休みすぎで、忍野到着が予定より1時間半遅れている。それで2時間半後にアラームをセットした。
アイマスクをして、改めてスリーピングシーツに潜り込む。
こんなボロボロで走り続けられるのだろうか...月間100マイルしか走っていない人間が、100マイルのレースは無謀なのかな...
DNFの三文字が頭をよぎる。
電子音で目が覚める。
スリーピングシーツから体を出し、アイマスクを外してあたりを眺める。そこは、2時間半前と変わらぬ体育館。
しかし、なんだか元気になった気がする。
装備をまとめ体育館からでると、風景は一変していた。
私がエイドに入った時は閑散としていたのに、今はランナーがあふれとても賑やかだ。
どういうこと?そうか、FUJI100miと同時開催のKAI70kが始まったんだ。忍野はKAI70kの第1エイドで、今、ランナーのボリュームゾーンが到着した頃合いらしい。
しまった、計算に入れていなかった。
トイレに行くも、行列。スタートが遅れる。
大勢のKAIランナーと一緒にエイドを出る。2時間ちょっと寝ただけだが、信じられないほど回復。眠気はふっとび、足もまた動くようになっている。
元気なKAIランナーに混じって、石割山を目指す。登りはしんどいが、周りの流れについてゆく。
石割山の下りで、ライトが暗くなった。サブのウエストライトを点灯するがこれは明るすぎ。私の前を走るランナーの背中がまぶしいくらい。
ハセツネでひとり旅をするときにはよいが、列をなして走っているときには、こんな明るいライトはいらない。
平尾山を越え、第6エイド、山中湖きららへ。スタートから122.5km。
エイドのテント?は熱気がすごくて、蒸し暑い。豚汁とおにぎりをもらうが、ランナーがびっしりで座るところもない。
補給をすませトイレに行く、そこも行列。トイレに並んで20分ロスト。
KAI70kとバッティングしないように計画を立てるべきだったと激しく後悔する。
エイドを出るときには、夜が明けていた。そして、雨が降り出した。
エイドをでてからしばらくして、エイドで写真を一枚も撮らなかったことに気づいた。寝たおかげで体力はだいぶ戻ってきたが、頭はまだちょっとぼんやりしている。
先日の試走で走った道を行く(「FUJI100mi最大の山場を試走」)。これからがレース最大の山場だ。
鉄砲木ノ頭を目指してカヤトの道を一定のペースで登る。
鉄砲木ノ頭の山頂で富士山の写真を撮ってすぐ出発。
ランナーがばらけてきて、トレールもよいこともあり、楢木山までまあまあのペースで走る。
雨が降ったり止んだりがいただけない。雨具を着たり脱いだり。雨具を着ていると暑い。
山伏峠で前を歩いていた女性に、この分だと15時くらいにはゴールできそうね、と話しかけられる。
いや、無理でしょう...杓子山の登りはきついし、渋滞の可能性もあるし。
山伏峠から石割山分岐までは、小ピークがいくつもある尾根で、試走ではしんどかった記憶がある。でも感覚がおかしくなっているのか、ゆっくり歩いているためか、それほど苦も無く登り切った。
石割山からは、二十曲峠のエイド目指して駆け下る。
忍野エイドでのダメダメ具合がうそのように、軽快に走る。足は痛いけど気分は上向きだ。睡眠は偉大だ。
第7エイド、二十曲峠。スタートから136km。
アンパンコーラ&バナナで腹ごしらえ。私の主食は昨日からアンパンとコーラ。おそらく私のかなりの部分はアンパンとコーラでできている。
ここまでくればあとフルマラソン1本分、先が見えた気がする。今日は、明日の予定もあり家に帰らなければならないので、19時くらいまでには絶対にゴールしなければならない。できれば帰る前に温泉にも入りたい。この調子だと大丈夫そうだ。
日が高くなるにつれて、頭もはっきりして、いろいろと計算ができるようになった。
しかし、そうすんなりとはいかない。
立ノ塚峠を越えたところで渋滞。ピクリとも動かない。
オーストラリアから参加のKAIランナーも交え、前後のランナーと立ち話をして時間をつぶす。オーストラリア人ランナーにこの夏に走る予定の富士登山競争について説明する。
それにしても、昨日ははっきりと富士山が見えたのに、今日は半分雲の中だ。KAI70kには海外からの参加者が多い。彼らにきれいな富士山を見せてあげたい。
時間だけが過ぎてゆく。のろのろと歩いて進む。
渋滞の源、杓子山手前の岩場。
そもそも私はランナーではなく山ヤなので、これくらいの岩場なら手を使わずにピョンピョンと登れる。でもランナーにはきついらしい。逆に私はロードの走りがきつい。
ここを越えて渋滞は解消。結局、2時間以上渋滞につかまり、ほぼ立っていただけ。
う~む、やばい、終電までにゴールできるだろうか?かなり焦る。
杓子山山頂。ランナーが代わる代わる記念写真を撮っている。
トレランのこの緩さが好きだ。ロードレースでとまって写真を撮ったり、座ってあんこ餅を食べていたりしたら、ちょっと変な人だろう。
杓子山の急な斜面も駆け下る。渋滞2時間の休憩のおかげで、だいぶ足が復活した。
明見尾根から下り天狗峰林道に入る。緩い下りが続くので走れる。着地衝撃で大腿四頭筋と足首がキリキリ痛むが、我慢して走る。
レースの下調べで読んだUTMF参加者のブログに、ここで幻覚を見たと書かれていたことを思い出した。100マイルレースで幻覚をみることは珍しくないようだ。メンタルが追い込まれるのだろう。
このレースで、私は疲れたり痛かったり眠たかったりして、なげやりになることは往々としてあったが、メンタルが追い込まれることはなかった。
かつての登山で、豪雨の濁流の沢の横で2晩ビバーグしたり、日没後にヘッドランプの明かりを頼りにクライミングをしたときはしんどかった。チンボラソ登頂のとき、標高6000mで高山病の頭痛と吐き気で撤退の判断を迫られたときは精神的につらかった。
でも、管理されたレースで心配することは何もない。動けなくなったら、そこにいれば誰かが助けに来てくれる。
ひと山超えると最終エイド、富士吉田。スタートから147.8km。
吉田うどんがうまい。何度も書くが、アンパンとコーラばかり飲み食いしていると、塩気のあるものが超うまい。
けっこうな量のうどんが残飯として捨てられていた。おそらく、うまそうなので受け取ったが、口にしても飲み込めず捨てざる得なかったのだろう。もったいないけどよくわかる。ここまでも道端にうずくまっているランナーを何人も見た。
何があっても食べられる自分の胃に感謝。
杓子山からここまでだいぶ頑張ったので、なんとか終電で家に帰れそう。このままもうひと頑張り。
しかし、富士吉田エイドから府戸尾根の登山口までが地獄だった。
ずっとロード、最初は緩い下り、そして緩い上り。もう登りの足は使い切ったので歩く。そして、下りはアスファルトの着地衝撃がきつすぎる。一歩一歩、うっ、うっ、と痛みが足から脳天を突き抜ける感じなので走れない。歩く。
前後のランナーも歩いている。これは通行人から見ると、おそらく列をなすゾンビの群れだ。
トレールの登りは、ただただ無心に登るだけ。時々深呼吸をしたり伸びをして頭をリセットする。
登っているうちに尾根に出る(あたりまえか)。富士山を眺め走り出す。トレールの下りはまだ走れる。
ちょっとした階段を死力を尽くして登り切ったところが、最後のピーク天上山。
スタッフがいて甘酒をふるまってくれた。うまい!!ミニエイド。
富士急ハイランドへ向けて、ブラジル国旗をザックにつけたランナーについて、急斜面をジグザグに駆け下る。
そしてロードに出る。ロードは痛くて走れない。ブラジル国旗はそのまま走り去った。
富士急ハイランドのジェットコースターが見える。
ぐるんと回ったり上ったりして悲鳴を上げながら、箱に運ばれている人々がいる。私は、160kmくらい自分の足に運ばれてここにやってきた。
どちらがどうということもなく、どちらもちょっと気違いじみている。人生いろいろだ。
よろよろと富士急ハイランドを突っ切る。普段は関係者しか入れない道。
そして、富士山パーキングへの陸橋に上がる。陸橋からぐるりと周囲を見渡す。私は、自分が走ってきたトレイルに囲まれている。
富士山パーキングから林道へ、そしてトレイルへ。ゴールの北麓公園に向かって真っすぐにゆるい上りが続く。得意の早歩きで休まず歩き続ける。
河原を渡るとゴールはすぐそこ。ああ、本当に走れたんだ、6年前には絶対無理だと思っていた100マイルを。
再びロードに入る。最後なので、力を振り絞って、できるだけきれいな、かっこいいフォームで流れるように走る。
沿道から、「マイラーおめでとー」との声援をいくつも受ける。
北麓公園に入り、直線を走った後、スタジアムに回り込む。最後にダッシュして、おととい見たゲートにゴールイン。
ああ、無事終わった。疲れたけど、奥信濃100の時のようなケガはしていないようだ。
写真を撮ってもらって、残った自作ジェルを全部飲み干して、一息つく。
本当に疲れた。こんなに疲れたのは大学2年生のときの夏合宿以来だよ。
でもいいレースだった。エイドや道案内のサポートも100点満点、ありがとう。
富士山駅行きのバスの時間を確認する。行ったばかりで、次は1時間半後。バスが少なすぎるぞ。
預けていた荷物を受け取り、帰宅用に整理する。
のろのろとしか動けない。時間はあるのであせらない。あせれない。
何か食べたいけど、屋台はほとんど終わってしまっているので、余ったあんこ餅を食べる。どれだけあんこ餅に助けられたことか。
バス停に向かう途中で、大会プロデューサーの六花さんとすれ違い、ありがとうございましたとお礼をする。
やっとバスに乗り、富士山駅へ。いかん、ゴールしてから写真を撮るのをすっかり忘れていた。
富士山駅に到着。温泉に入るなら、葭之池温泉か。電話して時間を聞く。あと1時間で終了とのこと。すぐいかないと。
電車は行ったばかりなので、やむを得ず駅前にいたタクシーを捕まえる。ドライバーに、富士山走ってきたんですかとたずねられる。160kmと聞いて驚いていた。そりゃそうだ。
葭之池温泉に入って、生まれ変わってビールを飲む。列車の時間が近づいたので温泉をでる。すると、通ろうとしていたトンネルの入り口に大きなイノシシがいる。
こわ~い。こわすぎる。
横の畑に下りて行ったのを見計らって、ヘッドライトを点灯して、びくびくしながら駅にたどり着いた。
富士急行の終電に乗り大月駅へ。
中央線に乗り換えすぐに意識を失う。目が覚めたら高尾駅だった。なんとかその日のうちに帰宅することができた。
—
後日談。
翌日、朝起きると右足の足首が腫れて、倍くらいの太さになっていた。捻挫とかケガはしなかったが、足首が166kmに耐えられなかったようだ。週末は五竜岳を登る予定だったがキャンセルした。
3日ほど様子を見たが、腫れが引かないのでかかりつけの整形外科に見てもらった。特に関節や腱に異常はないということで、腫れ止めを処方してもらう。
ついでに右胸の痛みも見てもらう。レース中、バックパックの右のショルダーストラップのポケットにカメラを入れて走っていたが、このカメラの角が当たっていたあばらが痛い。走っているときは足のほうが痛くて気がつかなかったが、今はこちらの方が痛い。
レントゲンを撮ると、あばら骨にひびが入っていた。カメラの角がずっとコツコツと当たっていたので、疲労骨折したようだ。恐るべし、100マイル。
別世界だと思っていた100マイルレースをなんとか完走できた。
某漫画に「人間負けてしまったら負けだぞ」という名言(迷言)があったが、たぶん正確に言うと「人間負けと思ったら負けだぞ」なんだと思う。
負けないように次の目標を目指して走りたい。
(FUJI100mi、完)
赤星山もおといこさんも地元で親しまれている山のようですね。調べてみたら行ってみた…