行きは良くない、帰りも怖い…~谷川岳・一ノ倉沢
8/1 一ノ倉沢駐車場~テールリッジ~衝立岩取り付き~一ノ倉沢駐車場
先々週の北岳バットレスに負けない、ポピュラーなクラッシックルート、谷川岳一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜を目指す。が、昨夜はテントに小石が降るかのようなひどい雨。これでは岩がビショビショだ。不安がつのる。
昨夜の雨で岩が濡れているのは間違いない。現在の天気は曇り&ガス。急に岩が乾くことも期待できない。
リーダーに、どうしますか?とたずねられ、自分のヘナチョコぶりを忘れ、行けるところまで行ってみましょう!などと答える。で、とりあえず出発。
今日の天気予報は晴れ後雨。岩場の途中で雨に降られたくない。想像さえしたくない。そこで、昼には下山するために、夜明けの一ノ倉沢に入山する。薄暗く雲が重く垂れ込める一ノ倉沢はまさに「魔の山」にふさわしい威圧感。
一ノ倉沢の右岸を歩いて行くと、すぐに雪渓の末端に突き当たる。雪渓の割れ目をさけ、ルートを選びながら雪渓にはいずり上がる。
硬く急な雪渓を一歩一歩足元を確かめながら登ってゆく。意外なことにつま先を蹴りこんでも、はじき返されるほど雪が硬い。それなのに雪渓の上は暑い。気持悪いほど蒸し暑い。沢から雪渓の上をガスとともに風が吹き下りて来るが、この風がサウナの熱風のように、異常に湿度が高くて熱いのだ。
テールリッジ末端に到着。これを登り本当のアプローチが始まるが、アプローチと言ってもどう見ても立派な岩場。
陽が昇り、ガスの切れ間から青空と一ノ倉沢の岩壁が見えてきた。
テールリッジ末端を登る。ルート集にはⅢ級とあった。しかし、雪渓が引いたばかりで浮石が多いのと、ドロドロしているためフラットソールが使えず、アプローチ用の軽登山靴で登ったので、難しく感じた。
テールリッジは「リッジ」なので尾根だ。だが、所々スラブになってるうえに、おまけに昨日の雨のせいで岩が濡れ、まるでナメ滝だ。そこを軽登山靴で登る…滑る、滑る!、滑る(怖!)尾根の両側はナメナメしたまま、スラブに落ち込み、そのスラブもナメナメしたまま下まで続いている。落ちたらどこまで滑るのだろう…。幸いもっとも難しい場所にはフィックスロープがあったが、鉄板に油をまいたような場所をロープにつかまって歩くのもかなりしんどい。
そんなこんなで、衝立岩中央稜の取り付きまでやってきた。ここを左にトラバースすれば烏帽子沢奥壁南稜の取り付きだ。つまり、ここからが今日の本番。しかし、滑るテールリッジとの格闘で汗だくになり、時間も予想以上に使ってしまった。そしてやはり岩は濡れている…

と言うことで、辺りの景色を目に焼き付けつつゆっくり休む。一ノ倉沢の対岸には滝沢スラブが見える。垂直に立ち上がり滑らかに延び上がってゆく壁。この冬期登攀をNHKで放送していたっけ。む~、怖い。

一瞬、雲が切れて薄日が差した。緑に覆われた幾重もの岩尾根が見えた。北岳バットレスは、明るく開けたあか抜けたフェースだったが、ここ一ノ倉沢は、深い谷が複雑に入り組み、ひだのように岩尾根が重なる、威圧感のある重々しい場所だ。
我々はあきらめて下山するが、後から来たパーティーは南稜にとりついていた。
さて、下山。岩がツルツルで、場所によっては滑り台を歩いて下るような感じ。登ってきたときよりも緊張する。行きも怖いし、帰りも怖い。時間がかかっても、できるだけ懸垂下降で安全を確保しながら下る。

懸垂下降で下り続ける。登るときの一番の難所(ツルツル)にやってきた。滑って振られたら怖いな~、と思っていたが、すで岩が乾いていたため、滑らずしっかりと立って下ることができた。
難所をぬけてひと安心。ザックを置いて休憩する。振り返ると正面に衝立岩、そしてすぐ左にあきらめた烏帽子沢奥壁南稜。

テールリッジの下降完了。ホッとする。あとは雪渓を踏み抜かないように下るだけ。下りは滑るかと思っていたが、雪の上の黒いモコモコ(土と草がまざったもの)を踏みながら歩くと、滑らず歩けた。
雪渓の末端から下ってきたルートを振り返る。登るときは薄暗くて分からなかったが、テールリッジと南稜に続くルートがよく見える。緑の帽子をかぶったような中央のピョコから上がる尾根がテールリッジだ。アプローチと言うくせに、傾斜もあってかなり登るんだな~。
一ノ倉沢の駐車場まで下りると、そこは観光地だった。数十人の観光客達が一ノ倉沢を眺め、驚き、写真を撮っている。そこへ、沢の奥から突然我々が登場。「どこを登ったんですが?」と少し歩くごとにたずねられる。
「あそこの三角形の岩壁の下まで行って…戻ってきました…」
なんとも歯切れの悪い答えである。
この後、定番の湯テルメで温泉につかり、豆腐アイスを食べて、早々に昼には水上を発った。
(一ノ倉沢、完)
赤星山もおといこさんも地元で親しまれている山のようですね。調べてみたら行ってみた…