世界遺産、そして激戦地、フエ~ベトナムの旅(3)
11/15 フエ駅~阮朝王宮
(前回の続き)
昨日とはうってかわり、ずっと水田地帯が続く。車窓からは青々とした稲、草を食む水牛、群れて歩き回る鴨、そしてなぜか線路に沿って並ぶお墓が見える。灰色の重苦しい空からは時折ザーッと雨が降り注ぐ。それなのに早朝から、上半身裸でつるはしを振るって線路工事をしている人々がいる。
ほぼ定刻8:50分にダナン到着。大勢の欧米人バックパッカーが列車を下りた。なぜ日本人はいないのだろう?ダナン駅はスイッチバックのようになっていて、列車は進行方向を変え、窓から海が見えるようになった。茶色く波の荒い海。列車は海岸のがけ際を走る。列車はここから止まったり動いたりで、なかなか進まなくなった。目的地フエは近いはずなのに。
予定より1時間ほど遅れてフエに到着。途中、並走して走るトラックに抜かれまくり、かなりムズムズした。駅を出ると、下りる人はそれほど多くないのに、タクシーやらバイクタクシーがわんさか停まっていて、次々に声をかけられる。にっこり微笑んで首を振り、土砂降りのフエの街へ歩き始めた。
いきなり道に迷う。地球の歩き方の地図では駅前から川沿いに Le Loi通りが延びているはずだが、そんなものはない。しかたがないので野生の勘で歩き続ける。場所を確認しようと地球の歩き方をザックから出すと、一瞬でびちゃびちゃになる…できる限り地図を暗記し歩き続ける。それにしても、ホーチミンに比べればバイクも少なく(でも日本の20倍くらい)、街路樹もきれいなので、少しは気が紛れる。
腹減った~。と言うことでシャワーを浴びて一息ついて遅い昼食に出る。フエの名物「ブン・ボー・フエ」フォーと同じ米の麺だが、よりシコシコした感じ。香草ともやしを入れ、ライムを搾り、かき混ぜて麺を口に入れると、まるでミントガムのように強烈なレモングラスの香りが口に広がる。そして次に牛肉のスープの濃厚なコク、一息ついて唐辛子の辛さが来る。辛い。ハフハフしながら食べる。でもうまい。これが本場の味か。
街路樹はまるでガジュマル。小笠原の母島みたいだ。そしてやっぱり母島のように木の神様を祭っている。
フエの目的、阮朝王朝に向かう。幸い雨も小降りだ。チャンティエン橋でフォーン川を渡ったところでNorth Faceのショップを発見、これ本物…?
次は阮朝の宮殿をめぐる外堀を渡る。細い橋の上をバイクや車がワンワン走りけっこう怖い。橋の向こうのトゥオントゥ門の写真を撮っていると、ひかれそうになったり、いらぬバイクタクシーのおじさんに声をかけられたりする。
トゥオントゥ門からどちらに行こうか迷う。世界遺産の王宮だというのに、案内板も何もない。声をかけてきたシクロの運ちゃんに聞く。指差すほうを見れば何もないので、無視して反対方向に歩き出す。あった、王宮の顕仁門だ。
城壁に沿って歩く。お堀の向こうに入り口、王宮門が見えてきた。それにしてもシクロやバイクタクシーが多いのに、観光客が少ないこと。雨季に来るのはよっぽどの物好きかもしれない。
王宮門で8万ドンを払って中に入る。1802年、ザーロン帝はベトナム最後の王朝、阮朝を創始した。その都がフエにおかれ、中国の紫禁城を模して王宮が建設された。この建物はその正面にある太和殿。1970年に再建された。玉座が置かれているが撮影禁止。
太和殿で阮朝を説明するビデオを見た後、さらに奥へ…と言っても、目の前には頤和園で見たのと同じ腕立て伏せをする龍がいるが、その先には何もない。
建物の中では復元作業が続けられている。
太和殿から真っ直ぐ、王宮の最奥部までやってきて降り返る。何もない更地が広がる。一番奥の建物が太和殿。よくよく見ると草に埋もれた石組みや石畳があって、なんかパエストゥムの遺跡っぽい。ベトナム戦争以前には、ここには阮朝の王宮の建物がそのまま残っていた。しかし、米軍がキャンプを置いたため攻撃の目標とされ、ほとんどすべての建物が破壊されてしまった。100年を越える王朝の歴史が一瞬にして瓦礫と化した。京都で市街戦をやるようなものだ。ほんの40年ほど前のことだ。
石畳を覆う夏草はおじぎ草。
そして足の踏み場もないほどのカタツムリにも覆われている。
敷地内にあまり案内板はない。パンフレットもくれなかった。地球の歩き方にもろくに説明はない。そこで適当に歩き回る。ここはかつての迎賓館の跡。爆撃で破壊されたままになっている。
まるで蘇州の庭園のような蓮の池。この建物はカフェになっていた。でも全身ずぶ濡れで寒くて、ここでゆっくりしている余裕はない…。
雨どい。蛙だか山椒魚だかわからないが、口からジャバジャバ水が出ている。雨が降っていて良かったと初めて思った。
見るべき程の事をば見つ。5時が近づき薄暗くなってきたので、王宮を後にして夕食の場所を探す。
夕食は王家の末裔が経営する、由緒正しき宮廷料理の店「ティン・ザー・ビエン」。狭い路地の奥にある豪邸のようでレストランには見えない。客はTシャツにびしょぬれの作業ズボン、サンダルを履いた私一人。でも宮廷料理のコースが注文できて、凝った細工を施された料理が次々と運ばれてくる。これは揚げ春巻き。サクサクと普通においしいが、わざわざ私一人のためにこんなのがでてくると恐縮してしまう。
食事をしていると、雨音しか聞こえないほど、どうしようもないくらい雨が強くなった。滝みたいだ。私の主義には反するが、大雨の夜道をバイクをかわしながら歩くのが怖いので、タクシーを呼んでもらって帰った。
(次回に続く)
赤星山もおといこさんも地元で親しまれている山のようですね。調べてみたら行ってみた…